柏木久美子・インタビュー 人との出会いの中から、必ずチャンスは見つかる

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人との出会いの中から、必ずチャンスは見つかる 人との出会いの中から、必ずチャンスは見つかる
長く全日本チームを引っ張ってきたアルペンスキーヤーの柏木久美子さん。長野、ソルトレイクシティと2大会連続オリンピックに出場、その闘志あふれる滑降は、スキーヤーたちの憧れの的でした。そんな柏木さんに近況を伺いました。
柏木久美子
かしわぎくみこ
1978年東京都生まれ。スキーアルペン元日本選手代表。父(柏木正義さん)が札幌オリンピック代表選手だったこともあり、生後まもなく家族で苗場に移住。2006年引退。
柏木久美子
柏木久美子
柏木久美子
――スキーは何歳から始めたのですか?
父(柏木正義さん)が札幌オリンピックの代表だったこともあり、本当に小さな頃からスキーをやっていました。小学生の時にはレースに出ていましたし、15歳で全日本入りをしたんです。

――小さな頃と大人になってからでは、スキーに対する思いは変わりましたか?
小さな頃は本当にあっけらかんとしていたっていうか、楽しんで滑っていたし、純粋に早くなりたいと思っていたんです。けれど23〜24歳になって日本では「トップでいるのが当たり前」になってしまって、そのプレッシャーはイヤでした。ケガや全体的な成績でやめたくなったことなんて度々。でも日本のレースではやめたくなかった。国内では1年に6試合があるんです。その間だけ何を言われようともぐっと我慢をして、ヨーロッパを転戦しているときにのびのびと滑る、という状況が何年も続いていました。

――辛さの反面、楽しさもあるから続けてこられたのですよね。
自分の体でスピードを実感できる楽しさはあります。でも、時速120kmを肌で感じるのは、やっぱり怖いんですよ。途中のコブ越えでは70mくらい宙を飛ぶこともあったし、転倒の恐怖もついて回るし。スタートまでは恐怖との戦いですね。でもスタートしてしまったら、あとは無心。というより、何も考えられません(笑)。

――28歳ですね。今後の活動はどう考えていますか。
目標にしていたオリンピックに2回も出られたし、スキーに対しては「やりきった」という思いがありますから、区切りをつけようと思っているんです。実はひざを何度も手術をしていて、ここ数年は歩くのもやっとだったんです。約1年前に、主治医の先生に「ちゃんと治す大きな手術を受けたら、プロとしてはもう滑れない。プロを続けるなら、だましだましやるしかない」と言われ、歩くのもつらかったので、区切りをつけようと決心がつきました。ただ、スキーをやめた後のことを考えていなかったから、さてどうしようって(笑)。ずっとスキーだけできてしまったけれど、実は、あまり競い合うのは好きじゃないんですね(笑)。競争のある世界はもういいかなって思って。それで、他人と競争をするのではなく、自分の努力次第で結果がついてくる、新しい世界に踏み出してみようと思ったんです。

――具体的に、何をするかは決まったのですか?
現役中から、マッサージをしてもらうと、体も楽になるけれど心も癒されるなぁと思っていたんです。マッサージ中の会話で、だいぶ助けられてきたので(笑)。それで、今度は私がスポーツ選手を癒したい、目標を持った人の助けになりたいと思って、鍼灸の資格を取りたいと思いました。入院中からリハビリ関係の本を読み始めて、にわか受験生です(笑)。11月に合格通知が届いたから、春からは鍼灸学校の学生です。

――性格的にも鍼灸は向いていそうですか?
そうですね。私、全日本チームで後輩から「おかあちゃん」って呼ばれていたんです(笑)。「おかあちゃん、今日のタイム、ぜんぜんだめだったよ〜〜」って泣きついてくる後輩のタイムが私よりよかったりして(笑)。だから、面倒見はいいほうだと思いますし、一生できること、手に職を持ちたいと考えていた私には、ぴったりだと思っています。

――学びなおすのは、勇気のいることですよね。
高校もスポーツ推薦で入ったし、生まれてはじめての受験(笑)。何から手をつけたらいいのか、受験勉強法について相談できる人がまわりにいなかったので、ずっと手探りでやってきて、自信がないまま本番を迎えてしまいました。受験会場の雰囲気も初体験でしょう。みんな参考書読んでいたり、親御さんが付き添いで来ていたりして。でもそんな様子を見たら、「ああ、たいへんなところに来てしまった」と思いながら一気にアドレナリンが出てしまい、ものすごく楽しい気持ちになってしまったんです。ハイな状態で試験を受け、最後の面接で「最近、楽しかったことは?」と聞かれて、「受験が楽しかったです」と答えて面接官にひかれたり(笑)。

――大学に行くという選択肢はなかったのですか。
いろいろな人にすすめられたんです。もう28歳だし、それで将来の仕事ややりがいを見つけられなかったら、大学の4年間が無駄になってしまうと思ったんです。ずっと「オリンピックに出る」という目標をもってスキーをしてきましたから、そのクセが抜けずに、やっぱり私は目標がほしいんですよね。「鍼灸の資格を取るんだ」というような、明確な目的が必要なんです。

――新しい環境では、どんな楽しみがありそうですか?
今度行く学校の生徒の平均年齢は、27歳だそうです。受験日にも10代から40代くらいまで、さまざまな人が受けに来ていましたから、経験豊富な人と出会えるのが今の楽しみです。学校は夜間なので、昼間はひざをみてもらっていた先生のクリニックでアルバイトをさせてもらえることになっているんです。そう考えると、鍼灸という新しいことをはじめようとしているけれど、私のベースは全部スキーなんだなって、改めて思います。スキーをやってきたから鍼灸に興味を持てたし、昼間のアルバイトもゲットできたんです(笑)。スキーをずっとやってきてよかった!(笑)

――新しいことに踏み出した体験者として、読者にメッセージをお願いします。
本当に鍼灸でいいのか、周りの人から反対の声もありましたし、私も受験までの半年間、悩みながら勉強を続けていました。その間にスポーツキャスターなどの話もありましたし、実家が苗場でスキースクールをしているから先生になったらとか。目移りしそうなときもありました。でも、自分にとって何がいいのかなんて、やってみないうちには誰にもわからないでしょう。私、スキーをやっていた頃から、迷ったら自分が出会ってきた人の中から、ヒントを探すようにしているんです。ほかの人の経験を聞いたりする中で、新しいことが見つかることは、本当に多い。いちばん大切なのは、人と人とのつながりです。だから、人との出会いは逃すな! そこからチャンスは広がる!って思っています。

――新しい環境も楽しみですね。ありがとうございました。
撮影/村上浩章 取材・文/原沢リヱ
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