特集記事/ 酒井充子監督インタビュー:彼女を映画作りに駆り立てものは?

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酒井:もともと映画好きで、台湾映画『愛情萬歳』(監督・蔡明亮)を観て、舞台である台湾をこの目で見たくなったんですね。一人でふらっと訪れた台湾で、70代と思われるおじいちゃんに、流暢な日本語で話しかけられたんですよ。台湾を日本が統治していた時代があることは知っていましたが、こういったおじいちゃんが暮らす台湾とはどういう国なんだろう。俄然興味が湧いてきて、それからですね、台湾を意識しはじめたのは。帰国してから当時のことを調べるうちに、ドキュメンタリーとして映像にしたいと思うようになりました。
酒井:取材のために訪台するようになったのは2002年から。以来、多くの日本語を話せる台湾の方々と接することができました。40、50人というところでしょうか。中にはカメラを回すなら話せないという方もいましたし、過去のことを話したくないという方もいらっしゃいました。結果的に、最後まで私の考えに賛同し、複雑な胸のうちを語ってくれた5人の声をまとめさせていただきました。
酒井:私、嫌なこと、辛いことはすぐに忘れちゃうタイプなんですよ。便利な性格なんです(笑)。ですから、苦労したことは特にないのですが、辛かったことがひとつ。台湾のことを調べていくうちに、二二八事件(注1)と、その後の白色テロ(注2)を知り、ショックを受けてしまって。あまりにも過酷な歴史を歩んできた台湾に衝撃を受けて、そんな辛い過去を微塵も感じさせない彼らの人生を、私が描ききれるだろうか、と一時期悩んだことがありました。そうそう、編集作業が大変でした。全部合わせると80〜100時間ほど撮影しているので、それを1時間半ぐらいにしなくてはならない。どの証言も私にとっては大事な声。身を切られるとはこういうことか、と泣く泣く81分の作品にまとめました。これは辛かったです。
酒井:やはり、きちんと形にできたことはうれしいですね。昨年台北で出演者をお呼びして上映会を開きました。証言の内容は辛い戦争時代のことですし、日本に対する不満などもあります。それを声を荒げて語ってくれたシーンもあり、実は怒られるのではないか、やめてくれと言われるのではないか、とドキドキしていたんです。でも、みなさん、「作ってくれてありがとう」って。中でも「男だったら、特攻隊に志願した」と言う元気な陳おばあちゃんは、「言いたいことをきちんと伝えられて、胸がすっとした! シワも目立たなかったし」って。ああ、よかった、と心の底から思いました。
酒井:歴史に興味のない方は、観光地としての台湾しか知らないでしょう。そういう方がこの映画を観たら、台湾自慢の料理もない、すばらしい景色もない。驚かれると思います。でもそういう方に観てほしい。感じ方はそれぞれ違っても、残る言葉があるはずです。それを胸に、もう一度台湾という国に触れてほしいです。登場された5人のうちの一人、楊おばあちゃんは、5人の中でいちばん聞き取りづらい日本語を口にします。彼女は幼い弟の世話のために小学校1年しか学校に通っていません。ですから、ほかの方々よりも教育を受けている期間が短い。それでも忘れていないんですね。字幕をつけては?という声もあったのですが、それが楊おばあちゃんの日本語なんです。彼女の語る内容はもちろん、その日本語も日本統治を経験した“台湾の人生”を明確に表現していると思います。その部分も感じてほしいですね。

『台湾人生』

日清戦争後に締結された下関条約で日本の統治下とされた台湾では、島民をすべて日本人として扱うために日本語教育が徹底された。そんな時代に育った「日本語世代」と呼ばれ、今でも日本語を話す70を過ぎる5人の台湾人の証言を記録したドキュメンタリー。戦争や白色テロを生き抜いた台湾の人々の心を浮き彫りにした作品。

監督/酒井充子
撮影/松根広隆
制作/協映
支援/文化庁
配給/太秦

2009年6月27日ポレポレ東中野を皮切りに、大阪・第七藝術劇場、名古屋シネマテーク、函館シネマアイリス他、全国順次ロードショー
http://www.taiwan-jinsei.com/

注1)二二八事件 1947年闇タバコを販売する女性への役人の暴行をきっかけに、戦後大陸から渡ってきた国民党による暴政に台湾人の怒りが爆発した事件。抗議デモを国民党は武力により徹底的に弾圧。約28,000人が殺害、処刑された。

注2)白色テロ 反体制運動に対し、体制側による迫害、弾圧行為。台湾では二二八事件後、38年間戒厳令が敷かれ、言論の自由を制限するなど国民党による恐怖政治が行われた。

酒井:学生時代、スポーツ新聞のサッカー担当になりたかったんですよ。でも入社試験に落ちてしまって。ある企業で3年間、営業として働きました。でも、新聞記者があきらめきれず退職し、北海道新聞社へ転職。函館報道部に所属しました。函館では毎年冬に映画祭があって、それを取材するうちに監督やプロデューサーといった方々と触れる機会が増えて、映画を作る側に魅了されていきました。新聞社に所属しているときに台湾を知って、どうしても映画が作りたい。それで「映画を作りたいので、辞めます」と退職しました。
酒井:映画監督って、何も所属しないフリーの状態ですから、不安はありました。でも一度しかない人生、石橋を叩きすぎて壊すのはもったいない。嫌なことはすぐに忘れるタイプで、かつ起こったことはプラスに考えるほうなんですよ。そのときは落ち込んでも、やがて血となり肉となり、自分の力となると思っています。だから、ポンッと飛び出せたのでしょうね。縁とはおもしろいものです。最初の会社に在籍したままなら、また北海道の新聞社に入社しなければ、この映画は撮れなかったと思います。
酒井:“夢”という言葉って、途方もなく大きいこと、荒唐無稽な気がして、私は夢ではなくやりたいこと、なりたいことは“目標”として考えます。夢では漠然としている感じがするけど、目標なら思い続け努力すればクリアになるような気がするんです。この作品を作ろうと思ったときも、夢ではなく目標として掲げました。2002年から取材をはじめて7年目にしてやっと、みなさんにお届けすることができます。7年間、掲げた目標に向かって、映画の完成を想像しつつ、私も日々努力しました。やりたいこと、なりたいことが具体的にあるなら、“目標”と意識変換してみてはどうでしょう。目標をクリアしている自分をイメージできますよ。私の次の目標は、台湾の日本語世代のお孫さんの人生。新たな目標に向かって、また努力の日々がはじまります。

Q1台湾料理でいちばん好きなものは?

えーっ! いちばんですか!? それは酷です(笑)。臭豆腐を揚げたやつに愛玉ゼリー、お弁当も絶品だし……。家庭の味もすばらしいです。台湾の味は、おいしいですよねぇ、おいしいですよねぇ……。
ごめんなさい、全部おいしすぎて、決められません(笑)。

Q2台湾に行くなら、ココ、というおすすめの場所は?

台湾の歴史に触れるなら、台北駅近くの二二八和平公園内の、二二八記念館がおすすめです。
ほかでは、台北市郊外にある陽明山、すてきです。夕暮れ時に台北の町を見下ろせる場所に立つ茶藝館で、
お茶を飲みながらのんびり台北の町が暮れるのを眺めていると、心が癒されます。

Q3台湾以外で気になる外国は?

父のいとこがハワイに住んでいて、昨年会いに行ったのですが、そこで日系二世の方の話が興味深くて。
ちょっと気になりますね。いつか、彼らのことも映像にしたいと思っています。

Q4休日は何をされていますか?

散歩と映画鑑賞。時間があると、のんびり散歩をしています。

Q5ご自身の作品以外のおすすめ映画は?

台湾を訪れるきっかけとなった『愛情萬歳』(監督・蔡明亮)、いいですよ。
1994年のヴェネチア映画祭金獅子賞作品です。機会があったらぜひ。

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